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2008/09/06

執筆者: Fukurou (11:11 am)


 多くのフルート曲に必要とされる気品の高い音色を表現するためには、ルイロットやゴッドフロイなどのヴィンテージ・フレンチ・フルートが最適であると考えています。その為に、どうしても例えばルイロットを1本傍らに置きたいと思うフルーティストが多くいらっしゃいます。

 一方、ダークさや重厚さについてはヴィンテージ・フレンチ・フルートに求めるのは困難だと考えています。私の場合は、1988年製の総銀製ヘインズを併用していますが、更に重厚さを色付けする為にラファンの頭部管を用いることもあります。愛用するヘインズに、10本以上もの頭部管を接合して音色や反応など音楽表現を比較してきましたが、ラファンの頭部管が最適だと考えています。音の反応については一般的にも定評があるのですが、音色に関してもその性能は大変高いと思います。基本的には重厚な音色なのですが、音の束の縦横の幅をコントロールすることができるのです。ある頭部管は音の束が円柱になり、ある頭部管は広がるだけ、と言うようにコントロールが効かないのが一般的なのですが、ラファンは演奏者の自由を聞いてくれます。

 ラファンと言えば「アドラー」が有名ですが、収息し易さと言う点では大変効果があると思います。また、特に低音域の発生がし易いと思います。しかし反面、音の束の幅やピッチのコントロールについては、「アドラー」がないモデルの方が優れていると感じています。
  ラファンの頭部管には、銀製のもの、金15%銀85%製のもの(シンフォニー・モデルと呼ばれる)、14金製、18金製、プラチナ製などバリエーションがあります。私は、求める音色や広がり感によって、銀製(14K金製リッププレート)や9K金製、あるいは総14K金製などを使い分けています。所有する幾つかの写真を以下に掲載します。


 現代頭部管の専門製作者の草分け的存在であったJ.R.ラファン氏は、たった一人で頭部管の製作に当たられており、高齢でありながら後継者がいないのです。また、高齢であるがためか、製作する頭部管の種類も最近では限定されていました。銀製やシンフォニー・モデルは製作されなくなったのです。このように急速に製作活動の幅を狭められたおり、あるニュースが届きました。

 ラファンの頭部管には、チューブ、リッププレート、ライザーなどの材質と製作時期を示すマークが刻印されています。丁度ジョイント部分の端に小さく打ち込まれています。このマークの意味や材質のバリエーションなど、J.R.ラファン氏と情報交換をさせて頂いていた時のことでした。ラファン氏から突然丸秘の情報を戴きました。なんと、丁度その時、「ブランネン・ブラザーズと提携に向けてを話しを進めている」とのことでした。その時提携の内容までは聞きませんでしたが、今、公にされた内容は大変残念に思います。ラファン頭部管を製作する権利をブランネン・ブラザーズに売却するとのことです。ラファン氏自らは製作しなくなるとすると(未確認ですが)、品質が変わってしまうのではないか、と思っていしまいます。是非、ブランネン・ブラザーズでコピーを作るだけではなく、後継者を設けて技術を引きついでもらいたいものです。

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2008/08/30

執筆者: Fukurou (11:55 am)


 1832年にベーム式フルートが考案されましたが、この時のモデルは円錐型木管リング・キーでした。ベーム式フルートは、フランスにてゴッドフロイとルイロット、イギリスにてルーダル&カルテによって各々別々に製作されました。特にフランスにおけるゴッドフロイとルイロットによる製作活動が、ベーム式フルートの波及に大きく影響を及ぼしたと言っても過言ではありません。

 1833年にゴッドフロイ(ヴァンサン・イポリット・ゴッドフロイ)とルイロット(ルイ・エスプリ・ロット)によって共同の工房が開かれました。1837年までには、この共同工房にて、ベーム式フルートが製作されたとされています。このベーム式フルートをいち早く使って演奏を行った一人としてルイ・ドリュスは有名です。ドリュス・キーと呼ばれるクローズド・タイプのGisキーは、ドリュスの積極的な演奏を通じて、演奏のし易さと音色への追及によって考案されたのでしょう。

 今、友人から1830年代後半から1840年代前半に製作されとされているゴッドフロイを勧められています。以上のような背景のもとに製作された初期のベーム式フルートで、歴史的にも重要な上実用的でもあり、現在入手を検討しています。管体はコーカス・ウッド製でキーは総銀製です。この頃のキー・ワークには幾つか特徴があります。一つは前述のように、Gisキーがクローズド・タイプのいわゆるドリュス・キーであることです。また、足部管のDisレバーの形状は、いわゆるティアーズ・ドロップと呼ばれるもので、1847年以降に用いられる以前の形です。芸術的な作品とも言えるでしょう。その他、GやB♭キーに施されたクラッチは、キーの連動に欠かせない機構の一つで、ベーム式フルートの初期にしか見られないものでした。

 1847年に、金属製の円筒型ベーム式フルートが発表されるまで、機構や材質などの研究が積み重ねられました。ベーム式フルートが考案されてから、この15年程の間には、そのような理由でそれ程多くのフルートを製作されなかったと言われています。その時代に製作された芸術作品がこれ程まで状態が良く、しかも実用可能な逸品として残っていることに驚きを感じます。以下に、幾つかの写真を掲載します。


 もし入手できれば、ヴィンテージ・フレンチ・フルートのファンの皆さんに、是非試して戴きたいと思っています。

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2008/08/23

執筆者: Fukurou (5:00 am)


 ヴィンテージ・フレンチ・フルートに魅せられ、多くのルイロットと接して来ました。それは、ルイロットが発する音色が現代フルートでは得られない大変高貴なものであると共に、造詣美も芸術そのもので、大変魅力的だからです。

 トラヴェルソの柔らかく、かつ上品な音色を継承しているがの如く感じられることもあります。一方で、音量に不満を感じ、歌口を改造するケースも多く見受けられます。しかし、その行為は、材質や製法、そして頭部管の設計全てを考慮して得られたせっかくの音色、音楽表現の性能を壊してしまうことになってしまいます。

 現代フルートを手にすると、確かに大きな音量を発することができますし、また音を発し易いのは事実です。しかし、ともすれば、息を思いっきり入れて鳴らしたり、あるいは息が歌口のポイントに当たっていないにも関わらず、気付かずに演奏を続けてしまうケースもままあります。

 私は、師事する先生から20年程前に譲り受けた1988年製ヘインズを愛用しています。当店のマスコットである2匹の猫は、いつも私の周りにまとわり付いているのですが、このヘインズで演奏を行う時、時折その音を嫌うかのように姿を消してしまうことがあります。テレビの音やラジオの音など、それ程気にしないのに、なぜかヘインズでの演奏を嫌う場合があるのです。

 一方、繊細な音楽を奏でたい時に、しばしばルイロットを用いて演奏します。この時、大変不思議なことに、彼らは傍らに寝そべって落ち着いているのです。本当に不思議なことです。

 ルイロット・フルートに持ち替えたとき、穏やかな気持ちで接しないと本来の音色が得られない場合を多く経験してきました。息を吹き入れようとしても楽器は響いてくれません。フルートを身体の一部のように感じながら接し、歌口のポイントを意識して穏やかに演奏すると、思いもよらない程楽器が鳴ってくれるのです。その時に得られる音色は、まさに気品の高いものです。

 ルイロットでの演奏を終えた後、同じような気持ちでヘインズに持ち替えると、ヘインズ特有の甘くて広がりのある音色を発してくれます。ルイロットは、その楽器が奏法を導いてくれる、そんな魅力も持ち合わせていると言えます。

 猫は、人間の聴覚に比べて何倍もの感度を持っていると言われています。その為に、心地よい音色と耳障りな音色を自然に区別することができるのでしょう。そんな彼らを思い浮かべて演奏するのが、音色にこだわっている今の私の習慣にもなりました。当店の音色の診断士、2匹のマスコットを写真とイラストで紹介します。


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2008/08/16

執筆者: Fukurou (5:00 am)


 先日、久しぶりにアキヤマフルートを訪れました。

 秋山さんは、ルイロット・フルートを現代に再現させることに大変精力的に取り組まれており、ルイロットの技術を蘇らせて後世に残すことを目指されています。ルイロット・フルートを深く研究され、その数々の優れた技術をベースに独自の技術を盛り込みことによって、現代の演奏環境に適合した楽器を生み出されています。同じルイロット・ファンとして以前からお付き合いをさせて頂いています。

 秋山さん所有のヴィンテージ・フルート、そして新作を見せてもらう目的で訪問しました。所有されているルイロット・フルートを試奏させて頂いた後、新作を見せてもらいました。

 材質が音色に与える影響が大きいと考えられ、ルイロットが製作された当時のフレンチ食器(スプーンやフォーク)を溶かし、巻管製法で製作されて来られました。しかし、たとえ同じ材料を用いるとは言え、一旦溶かすために金属の配列が変わり、音色に影響を及ぼすと考えられ、大変大きな「おぼん」を材料とするいわゆる「オボン・フルート」を手がけられるようになりました。この「おぼん」の周辺を切り取り、真ん中の部分を叩いて延ばして使われています。「おぼん」には、当時のフランスで義務付けられていた銀の素材を証明する「ホール・マーク」が施されていますが、この「ホール・マーク」の部分をバレル部に飾りとして使われていました。キー・ワークの造形にも気を配られており、実に見事なフルートでした。

 歌口についても随分深く研究されており、最近新作を製作されました。管体にはフレンチ食器の銀を使われ、リッププレートとライザーには14Kや18Kの金を使われています。この新作頭部管と「オボン・フルート」との組み合わせで試させて頂きました。まさしくルイロットに見る高貴な音色でした。管体は非常に良く響き、振動が指に伝わってくるのを実感しました。一方で、ルイロットに特有の息を吹きかけたときの抵抗感はなく、むしろフワっと域が自然に入る感覚でした。それでいて、音が空間に広がり、遠達性に優れた音色である感触を受けました。ピッチバランスは抜群で、これらのコンビネーションがアキヤマフルートの真骨頂でしょう。

 以下に、秋山さんが当時フレンチ食器として使われた「おぼん」をお持ちの写真、それを使って製作された「オボン・フルート」の写真を掲載します。もともと撮影の予定がなかったためにカメラを持参しておらず、携帯電話で撮影した写真で不鮮明ですが、お許しください。


 材質や製法にこだわり造形にも気を配られていますが、その他にも様々な工夫が盛り込まれています。例えば、管体の内側は通常平坦に処理されるようですが、アキヤマ・フルートでは特有の「ゆらぎ」を施されています。このことによって、管体内部に伝わる音波の伝達特性が変化し、音色に深みが生まれるとのことでした。あくまで一例ですが、このような独自の技術が隠されているのです(他にもタンポの固定方法にも独自の技術があります)。

 ルイロットに関しては、まだまだベールに包まれている部分も多いのですが、今後、秋山さんの更なる研究で明らかになり、現代に蘇らせると共に後世に残して戴きたいと思います。

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2008/08/09

執筆者: Fukurou (5:00 am)


 フルートの音色はメーカーによっても材質によっても異なりますが、管厚の違いによっても当然変わってきます。総金製のものは総銀製のものに比べて重さを抑えるために、一般的に管厚は薄く設計されますが、音色のバランスを保つためにも有効なのかもしれません。すなわち、総金製の音色は総銀製の音色に比較して明るく重厚感があると言われますが、管厚を総銀製と同程度にすると、重厚感がありすぎると言うよりはむしろ共鳴させるにはあまりにもエネルギーが必要になりすぎると考えられ、適切ではないのかもしれません。

 海外、国内のフルートメーカーの総銀製フルートの管厚は、大体同じような値に定められているようです。ヘインズやパウエルなどでは0.356mm〜0.457mm(0.014インチ〜0.018インチ)とされており、村松フルートやYAMAHAなど代表的な国内のフルートメーカーも0.35mm〜0.46mmに定められているようです。

 あくまで一般的ですが、管厚が厚いほど重厚な音色になり、逆に薄くなると輝きのある明るめの音色になるとされています。

 私は、愛用するヘインズ(1988年製ハンドメイド、H管リング・キー、0.014インチ)の甘くてハスキーな音色が大好きですが、時として、より重厚な音色を求めることもあります。そのような場面に、0.018インチの胴部管・足部管と銀製ラファンの頭部管(14K金リッププレート、ライザー・モデル)との組み合わせが最適であると考えています。大抵の場合は、これらを使い分けることによって事足りるのですが、どうしてもルイロットのような高貴な音色を発することができないのです。そのような理由から、ヘインズとルイロットを手元に置くようにしています(稀に木管フルートも)。

 それでは、なぜルイロットは高貴な音色を発することができるのでしょうか。どうやら頭部管の形状、歌口、管厚、そして材質などに秘密があるようです。

 頭部管や歌口の形状が音色に与える影響については、様々な書物やレポートなどで述べられていますのでここでは割愛させて頂きますが、材質と管厚に関して私見を述べたいと思います(Das goldene Zeialter der FLOTEなどを参照してください)。

 管厚が音色に与える影響は、非常に大雑把ではありますが上述した通りです。それでは、実際、総銀製ルイロットではどのような管厚が用いられているのでしょうか。例えば4代目E.Baratの手による逸品(70**)の頭部管と胴部管の管厚を測定してみました。結果、現代フルートでは薄型とされているモデルの管厚と同じ程度で0.36mmでした。超音波測定などの高度な測定ではないため、多少の誤差はあるかもしれません(ノギスの計測部にボールのようなものを取り付けてキャリブレーションを行った後測定)。次に、3代目Debonneetbeauの手による逸品(36**と41**)を測定しました。結果はやはり同じで0.36mmでした。但し、41**の頭部管に関してのみ若干薄めのようで、0.34mmでした。これらの結果から、推測した通り管厚は薄く、上品な音色を発するためには必然だったのかもしれません。

 とは言え、現代フルートの薄型モデルで用いられている管厚と同程度であって、音色の高貴さについては比較にならないのはなぜでしょうか。頭部管の形状(絞り具合)や歌口の形状が大きく影響していることは確かですが、それ以外に材質に秘密があると考えています。総銀製と言えども、何か特殊な金属を混合しているのではないか、との興味から組成分析を行いレポートにまとめている例もあります( ルイロット分析へ )。しかし、結果は期待した程の秘密は隠されていませんでした(ある金属の混合比率が多いなど、僅かな違いはありましたが、製造する過程で自然に不純物として混入したと言う説もあります)。

 一方で、同じ材質とは言え製法による音色の違いが生じる可能性もあると言われています。ご存知のように、1800年代の終わりごろに引き抜き製法(シームレス管)が開発され、丁度4代目のE.Baratの頃に取り入れられました。シリアル番号が幾つ以降からシームレスになったと言う訳ではなく混在していたようですが、平たく伸ばした板状のものを巻いて製作されたシーム管のものとシームレス管のものとでは、明らかに金属密度が異なるようです。この金属密度の違いが音色の違いに繋がると考えている方も多いようです。

 更に、製作された後200年近くも年月を経た結果銀素材が硬化し、それが更なる高貴な音色に一役かっていると考えもあるようです。その為に、熱を加えることに関して事の他慎重になる場合があります。トーン・ホール半田付け部分の経時変化によるリークを補修するために半田付けをやり直す必要が生じたとき、熱の加わる部分を特定箇所に押さえる目的でレーザで部分的補修を行うことも考えられるほどです。あるいは、現代技術の発展に伴って進歩した樹脂系の接着剤によって、リークを防ぐ修理する方法もあります。いずれにしても、ろう付け程に温度が高くならないまでも、半田付けによる熱によって銀が柔らかくなることを嫌うのです。

 このように、ルイロットの高貴な音色の秘密には、幾つかの要素が絡み合っているようですが、特に初代ルイロット(Louis Esprot Lotの手によるもの)はルイロットのなかでもフルートのストラディヴァリウスと呼ぶに相応しい要素が含まれています。それは、ストラディヴァリウスと同様、見た目の芸術的崇高さと同時に、手にした感触にあると思います。空気をつかむが如く非常に軽いのです。そこで、先程述べました管厚の測定の続きですが、恐る恐る測定してみました。すると、頭部管は0.33〜0.34mm、胴部管は0.34〜0.35mmと更に薄くなっていました。長い年月の経過と共に、表目の錆を落とすために磨いた結果薄くなったとも考えられますが、明らかに持った感触が違います(様々な初代ルイロットを確かめた訳ではありませんので、個体差かもしれません)。求める音色とそれを実現するための機構や材質の設計の結果なのかもしれません。ただ、管厚をあまりに薄くし過ぎると演奏によるストレスによって楽器が変形してしまうでしょう。このような薄さを可能にしたのも、シーム管と言う製造方法による材質強度のお陰か、あるいは他にも機構上の秘密(機械設計上のノウハウ)が隠されているのかもしれません。

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